私と韓国ファッションの思い出

私が韓国ファッションと出会ったきっかけをつくったのは初めて就職した洋菓子店のオーナーの一人娘とその母親でした。

彼女たちは大の韓国ドラマファンで、当時住み込みで働いていた私を自室に招いては韓国ドラマとその俳優や女優の良さを語ることがひそやかなブームのようでした。

当初は彼女たちの熱狂的な韓国好きに追いつくのがやっとだったと記憶しています。

何せ韓国ドラマだけでなく、韓国で活躍するアーティストのCDやDVDを怒涛の勢いで紹介してきたのです。

それまで韓国ドラマやアーティストなど知らなかった私には目まぐるしい変化でした。

本音をいえば韓国に関するものは苦手だったので遠慮したかったですが、職場のオーナーの身内である彼女たちと住み込みで働いている従業員の私では立場が異なるため、断る言葉などあるはずもありません。

実際に一度だけ彼女たちの誘いを断った時は凄まじい批判の文章が並んだメールが送られたことがあり、それ以来仕方がなく付き合っていました。

こうして振り返ると嫌な感情とともに頭が痛くなるような記憶がよみがえりますが、それでも勉強になったことがあります。

例えばある韓国ドラマで離婚しようとする子持ちの女主人公に対して母親がやたら厳しい言葉を投げかけるシーンを見ていたとき、あまりにも厳しい態度だったので思わず疑問を口に出していました。

その時隣にいた一人娘の彼女は韓国の結婚に対する考え方のひとつとして韓国ではシングルマザーという立場は昔の日本以上に厳しく、白い目で見られるということを教えてくれたのです。

それまで他国の文化に触れることがなかった私には衝撃的でした。

確かに日本でもシングルマザーへの態度は冷やかなものだと知っていましたが、韓国におけるシングルマザーの態度は文化に根付いていると感じられました。

ところでオーナーの一人娘と母親は大の韓国ドラマファンだと先述しましたが、その惚れた様子は筋金入りで暇な時間を探しては韓国へ旅行するほどでした。

そのためか彼女たちのファッションは韓国ファッションを真似ており、それを自慢気に話していたのを覚えています。

あれは私が彼女たちの誘いを断って反感を買う前でした。

あの頃の彼女たちは私に対して献身的な態度を取っており、その時期に私を連れて大手の衣料品のチェーンストアに出かけた事があります。

特に来た理由はなかったようですが、彼女たちは各々韓国の話題を口にしながら服を手に取っていました。

私は主に話し相手として服選びに付き合っていました。

その時に何を思ったのか、彼女たちは信じられない気前の良さで私にも服を一着購入してくれたのをよく覚えています。

またその際に韓国ファッションの基本を教えてもらいましたが、それもまた韓国ドラマで見たシーンのように新鮮さとともに衝撃を受けたことが記憶に残っています。

韓国の学生は有名なスポーツメーカーのアイテムを好んでおり、それを得ようとするために他の学生から盗むニュースが流れることがあること。

流行の洋服を着たら処分し、また新しい流行の洋服を購入するスタイルが一般的なこと。

流行した洋服は誰もが着用し、街がその洋服であふれること。

基本的に子供でも大人でもリュックを使うことが当たり前なこと。

体のラインが分かるようなデザインとシックな色を着た女性こそが都会の女性らしいと見られること。

そしてセクシーなデザインがファッションに好まれていること。

簡単な説明でしたが、現地に行ったからこそ伝わる印象と韓国のアーティストのコスチュームなど様々な例えを交えていたおかげで分かりやすかったです。

そんな彼女たちが手に取る服やチェックするアイテムは説明した通りのものばかりでした。

彼女たちはまず黒いワンピースを手に取り、着用すれば体のラインが隠れてしまうことを確認すると二人はすぐにワンピースを諦めました。

それから時間をかけて選んだ黒いトップスは露出が少々激しいものでしたが、二人はとても気に入って「一人娘用に」とカゴの中に入れたのを今でも思い出せます。

また「母親用に」と二人が互いに選び抜いた服はアメリカコミックのヒーローが全体的に描かれたパーカーでした。

私の目から見ればかなり派手な柄のパーカーだったものの、体にフィットした感触が良かったらしく、そのパーカーもカゴに放り込みました。

そこでようやく私の番になるわけですが、正直なところ、焦りました。

いくら服を購入してもらえるといっても高価な服を選ぶわけにはいりません。

焦った私は安価な服を手に取りましたが、却下されて別な服をすすめられました。

それは濃い色をしたベージュのカーディガンでした。

あの時の私はサイズもデザインもどうでも良く、手頃な値段であったことと彼女たちにすすめられたことですぐに受け入れましたが、あのカーディガンは彼女たちが大好きな韓国ファッションにふさわしいものだったから選ばれたのだと職場を辞めた今では口元をほころばせています。

彼女たちの付き合いは大変でしたが、あれはあれで悪いものではありませんでした。

特に韓国ファッションを教えてもらったあの瞬間は楽しかったです。

 

 

 

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