技能労働者が集まらない!?業界の採用問題とその打開策を探る

建設業界で、技能労働者不足が深刻化している。

この問題は、長年にわたって業界が抱えてきた構造的な課題が背景にある。

私は、現場監督、広報担当、そして現在はライターとして、建設業界に長年携わってきた。

その経験から見えてきたのは、この問題の根深さと、早急な対策の必要性だ。

「安全第一」と「データ重視」の視点。

これらは、私が現場監督時代から一貫して持ち続けてきた信念だ。

この視点で業界の現状を分析すると、採用と定着という2つの側面で、大きな課題が浮かび上がってくる。

本稿では、これらの課題を深掘りし、建設業界の未来を左右する人材問題について、私の経験と知見をもとに考察していきたい。

建設現場のリアル:なぜ技能労働者が不足するのか

高齢化の波と若手離れ

まず目を向けるべきは、建設現場で働く技能労働者の年齢構成だ。

「高齢化が進んでいる」という事実は、各種統計データからも明らかである。

国土交通省の調査によると、建設業就業者のうち55歳以上の割合は約35%、一方で29歳以下は約11%に過ぎない。

# 建設業就業者の年齢構成 (2022年)
# 55歳以上:約35%
# 29歳以下:約11%
(出典:国土交通省「建設業を巡る現状と課題」)

このデータが示すのは、ベテラン層への過度な依存と、それに伴う技術継承へのリスクだ。

長年現場を支えてきた熟練工が引退の時期を迎える一方で、彼らの技術を受け継ぐ若手人材が圧倒的に不足している。

では、なぜ若年層は建設業界を選ばないのか。

その理由を探るには、業界が持つイメージを読み解く必要がある。

「きつい、汚い、危険」の3K。

この言葉に象徴されるような、ネガティブなイメージが、若者の参入を阻む大きな要因となっているのではないか。

労働環境と待遇の現実

業界イメージの問題を考える上で、避けて通れないのが労働環境と待遇の現実だ。

長時間労働や、天候に左右される屋外作業、高所作業などの危険を伴う労働環境。

これらは、建設現場の「当たり前」として、長年見過ごされてきた側面がある。

また、賃金水準や雇用形態に関する課題も見逃せない。

他の産業と比較して、労働環境の厳しさに見合うだけの賃金が支払われているのか。

非正規雇用の割合が高く、雇用の安定性に欠けるのではないか。

こうした疑問は、業界が真摯に向き合うべき課題と言えるだろう。

項目建設業他産業平均
年間実労働時間約2,000時間約1,700時間
非正規雇用労働者比率約18%約15%

(出典:厚生労働省「毎月勤労統計調査」などを基に筆者作成)

この表からも、建設業の労働時間の長さと非正規雇用の多さが読み取れる。

これらの課題が、若者の業界離れを加速させている可能性は否定できない。

業界の採用戦略を分析する

企業規模別に見る採用活動の特徴

では、建設業界はどのように人材確保に取り組んでいるのか。

ここでは、企業規模別に採用活動の特徴を見ていこう。

まず、大手建設会社の場合。

彼らは、充実した研修制度と積極的な広報活動で、新卒採用を中心に人材確保を図っている。

インターンシップの実施や、大学での企業説明会などを通じて、学生へのアピールに力を入れているのだ。

一方、中小企業はどうか。

多くの中小企業が、求人難に直面し、人材確保に苦戦している。

ハローワークや求人サイトを通じた募集が中心だが、応募者数は限られ、採用に至らないケースも少なくない。

特に地方の中小企業では、この傾向が顕著だ。

人材確保のカギ:ブランディングと広報力

人材確保の成否を分けるカギ。

それは、企業のブランディングと広報力にあると私は考えている。

特に重要なのは、業界のイメージを変革することだ。

「作業」から「ものづくり」へ。

この意識転換が、建設業の魅力を高める上で不可欠だと思う。

建物を造る、インフラを整備する。

それは、社会を支える、やりがいのある仕事だ。

この「ものづくり」の魅力を、いかに効果的に伝えるか。

元広報担当として、私は社内外のコミュニケーション戦略の重要性を痛感している。

例えば、SNSを活用した情報発信。

現場の様子や社員の声をリアルに伝えることで、企業の魅力をより身近に感じてもらえるだろう。

また、地域社会との連携も重要だ。

地域のイベントへの参加や、学校での出前授業などを通じて、建設業の役割や意義を広く発信する。

こうした地道な活動が、業界全体のイメージアップにつながっていくはずだ。

技術継承を支えるデジタル化の可能性

BIM・AI・IoTが変える施工管理

人材不足を補い、技術継承を円滑に進める上で、大きな可能性を秘めているのがデジタル技術の活用だ。

近年、BIM(Building Information Modeling)、AI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)といった先端技術が、建設現場に導入されつつある。

これらの技術は、施工管理のあり方を大きく変えようとしている。

例えば、BIM。

建物の3次元モデルをベースに、設計から施工、維持管理までの情報を一元管理するこの技術は、現場作業の効率化に大きく貢献する。

また、AIを活用した工程管理や、IoTセンサーによる構造物のモニタリングなども、生産性向上や品質確保に効果を発揮するだろう。

# デジタル技術の導入メリット
- 現場作業の効率化
- 技能継承の促進
- 品質の向上
- 安全管理の強化

これらの技術は、経験の浅い若手人材でも、ベテランと同等の成果を出すことを可能にする。

つまり、デジタル技術は、技術継承のハードルを下げ、人材育成を加速させる力を持っているのだ。

しかし、ここで重要なのは、「使える」デジタルツールを選ぶこと。

私は、現場監督として数々の新技術導入に立ち会ってきた。

その経験から言えるのは、現場のニーズに合わないツールは、結局使われずに終わるということだ。

導入ありきではなく、現場の課題解決につながる技術を見極め、効果的に活用する。

この視点が、デジタル化を成功に導くカギとなるだろう。

オンライン学習とリモート研修

コロナ禍で加速した教育環境のデジタルシフト。

これは、建設業界の人材育成にも大きな影響を与えている。

オンライン学習やリモート研修の導入は、時間や場所の制約を超えた、効率的な学びの機会を提供してくれる。

例えば、施工管理のノウハウ。

これを動画コンテンツとして蓄積し、オンラインで共有すれば、全国どこからでも、自分のペースで学ぶことができる。

また、ベテラン技術者によるリモート研修を実施すれば、遠隔地の現場でも、熟練の技を直接学ぶことが可能だ。

  • オンライン学習のメリット:
  • いつでもどこでも学べる
  • 自分のペースで学習できる
  • 繰り返し学習できる
  • リモート研修のメリット:
    → 遠隔地の現場でも受講可能
    → ベテランの技術を直接学べる
    → 交通費や宿泊費の削減

こうしたデジタル技術を活用した教育・研修は、人材育成の効率化と質の向上に大きく貢献するはずだ。

事例紹介:現場改善から始まる人材定着

安全管理の高度化で職場環境を変える

人材の定着を図る上で、最も重要なのは職場環境の改善だ。

特に、安全管理の徹底は、建設現場で働く人々の安心と信頼に直結する。

「安全第一」。

この言葉は、私が現場監督時代に最も大切にしてきた言葉だ。

危険予知(KY)活動の徹底、安全帯着用の義務化、定期的な安全教育の実施。

これらは、安全な現場づくりの基本中の基本である。

しかし、現実には、これらの取り組みが形骸化している現場も少なくない。

ここで紹介したいのは、ある中小建設会社の事例だ。

この会社では、「安全は全てに優先する」という社長の強い信念のもと、安全管理の高度化に徹底的に取り組んだ。

具体的には、以下のような施策を実施した。

◆ 毎朝のKYミーティングの義務化と、危険箇所の重点的な確認
◆ 全員参加型の安全パトロールの実施
◆ ヒヤリハット事例の共有と再発防止策の検討
◆ 安全表彰制度の導入によるモチベーション向上

これらの取り組みの結果、労働災害の発生件数は大幅に減少し、従業員の安全意識も大きく向上したという。

「安全な現場は、良い仕事を生む」。

この会社の取り組みは、そのことを証明していると言えるだろう。

中小企業の創意工夫

限られた予算の中で、いかに効果的な人材育成を行うか。

これは、多くの中小建設会社に共通する課題だ。

ここでは、ある地方の中小企業が実践したユニークな取り組みを紹介したい。

この会社では、「学びの場」づくりに力を入れている。

具体的には、以下のようなプログラムを実施している。

  • ベテラン職人による若手向けの実技指導塾
  • 外部講師を招いた技術セミナーの定期開催
  • 資格取得支援制度の充実
  • 社員同士の勉強会の推奨

これらの取り組みのポイントは、社員同士の対話を重視していることだ。

特に、ベテラン職人と若手が直接コミュニケーションを取れる場を積極的に設けている。

「技術は、教わるものではなく、盗むもの」。

これは、私が現場監督時代に先輩からよく言われた言葉だ。

この会社では、まさにその精神を実践していると言えるだろう。

ベテランの技を間近で見、質問し、議論する。

こうした経験の積み重ねが、若手の成長を促し、技術の継承につながっていくのだ。

また、近年ではデジタルツールを活用して業務効率化や人材育成を支援する企業も登場している。

例えば、BRANU 評判の企業は、「テクノロジーで建設業界をアップデートする。」をビジョンに掲げ、マーケティングから採用管理、施工管理、経営管理まで一元管理できる統合型ビジネスツール「CAREECON Plus」などを提供し、建設業界のDX推進に貢献している。

こうしたサービスを活用することも、今後の人材不足解消の一助となるだろう。

まとめ

建設業界が直面する「人手不足」の問題。

それは、単なる労働力の不足というだけでなく、業界の将来を左右する深刻な課題である。

本稿では、この問題の背景にある構造的な課題を明らかにし、その解決に向けたヒントを探ってきた。

高齢化と若手離れ、労働環境と待遇の問題、企業規模別の採用戦略の違い、そしてデジタル技術の可能性。

これらの視点から見えてきたのは、人材確保と定着に向けた多面的なアプローチの必要性だ。

特に重要なのは、以下の3点である。

  1. 技術継承を円滑に進めるための、デジタル技術の活用
  2. 魅力的な「ものづくり」の現場を創出するための、職場環境の改善
  3. 建設業のイメージを変革するための、積極的な情報発信

「安全第一」の精神と、最新技術の融合。

これこそが、建設業界を次のステージへと導く鍵だと私は考えている。

58歳のベテランとして、そして建設業界を愛する一人の人間として、私はこれからも業界の発展に貢献していきたい。

そして、若い世代が希望を持って働ける、魅力あふれる建設業界を創っていくために、私自身の経験と知見を、惜しみなく発信し続けていこうと思う。

それが、長年この業界に育てられた私に課せられた、使命だと信じているからだ。